HOME » トピックス

トピックス

会員企業を紹介します④トライフ

2022年 12月 29日

横浜グリーン購入ネットワークの会員企業を紹介します。取材は記者の春名さんです。

第4回目は株式会社トライフ様。宇宙に進出した歯磨き剤をリリースされたバイオベンチャー企業です。障がい者の仕事創出も実現しています。

米国・フロリダのケネディ宇宙センターから今年10月6日、日本人宇宙飛行士・若田光一さんが搭乗した民間宇宙船「クルードラゴン」が打ち上げられた。「トライフ」(横浜市中区)が製造・販売する「宇宙歯磨き オーラルピース」が搭載された瞬間だ。国際宇宙ステーション(ISS)に滞在中使用される。馬車道の歴史を感じさせるビルの一室のオフィスを訪ね、これまでの足跡を取材した。

「宇宙歯磨き オーラルピース」 

「宇宙歯磨き オーラルピース」 

トライフは、オーガニック化粧品ブランドのコンサルタントとして業界で知られる、手島大輔代表(52歳)が2006年設立した。13年に始動したのが「オーラルピース・プロジェクト」だ。

12年、末期がんを宣告された父が、抗がん剤の副作用で口腔内トラブルにより衰弱した。歯磨きの際、口腔用合成殺菌剤を誤飲したことがあり、とはいえ、水で歯磨きすると、トラブルの原因菌は退治できず、死亡のリスクは下げられない。そんな姿を目の当たりにしたことがきっかけだった。

それに先立ち、九州大学では、植物性乳酸菌由来の抗菌ペプチド「バクテリオシン」を発見、実用化の相談が手島代表に持ちかけられていた。

同大などの産学連携の研究グループがこれを製剤化し、特許を取ったのが「ネオナイシンe」。天然由来成分100%。虫歯や歯周病、口腔カンジダなどの原因菌への優れた有用性があり、のみ込んでしまっても体内で分解・消化されるのが特徴だ。

一方で、手島代表は、障がい者の「親亡き後」問題に熱心に取り組んできた。障がい者は親が亡くなった後、収入が少なく、経済的に自立していくことが困難という実態がある。手島代表自身の子どもにも障がいがある。障がい者の仕事創出と収入アップなくしてこの課題は解決しないと考える。

モノが売れる仕組みを作るのが得意なので、それまでもNPOをつくり、障がい者のものづくり支援や賃金アップに取り組んできたが、なかなか思うようにいかない状況が続いてきた。

そうして13年7月に発売されたのが、「オーラルピース」のジェルタイプとスプレータイプだ。

「オーラルピース」の各商品。ジェルタイプとスプレータイプ
「オーラルピース」の各商品。ジェルタイプとスプレータイプ

「オーラルピース」の出荷や納品、販売などの業務を任されているのが、全国の障がい者就労施設だ。

知的・精神障がい者らの就労支援に取り組む、新潟市の特定NPO法人「あおぞら」では、新潟県阿賀野市の就労継続支援B型事業所で、製造を請け負っている。事業所に通う約10人が、職員のサポートのもと、作業に携わっており、年間約1万本を作っている。同事業所では、化粧品製造工場認可を取得した。

東京都内の社会福祉法人「東京コロニー」東村山事業所(就労継続支援B型事業所)は、障がい者約80人が所属。卸売販売と梱包・発送業務を請け負っている。

東京コロニー東村山事業所での発送作業
東京コロニー東村山事業所での発送作業

公式オンラインショップでの購入者への発送作業や製品輸出の梱包作業にも携わっているほか、営業チームを組み、養護施設や病院などを訪問している。

同施設からの卸売販売には、クレヨンハウス、東急ハンズ、アーバンリサーチドアーズ、オーガニックマーケットがサポーター企業として協力している。

そのほか、横浜市内をはじめ、各地の施設が、施設内などでの販売や介護施設への納品を担当している。

同社のこうした取り組みが評価され、14年に「ヨコハマベンチャーグランプリ」最優秀賞、15年に「ジャパン・ベンチャーアワード2015」最優秀賞、17年に「グッドデザイン賞2017」、19年に「農芸化学技術賞」などを受賞した。

「ジャパン・ベンチャーアワード2015」を受賞した手島代表 
「ジャパン・ベンチャーアワード2015」を受賞した手島代表

「トライフ」という社名には手島代表のこだわりがある。

「TRY OUR LIFE」「TRY OUR FUTURE」などを略した「自分たちの人生や困難に挑戦し未来を拓こう」という意味と、「T’s Life」。「3人の障がい児の親となった手島代表の背負った使命と人生でなすべきこと」、 という意味だそうだ。

同社の社員はわずか3人だが、共感とともに集まった各界のプロフェッショナルである数百人のプロジェクトメンバーが支える。

「のみ込んでも大丈夫」という「オーラルピース」最大の利点は、水が非常に貴重な宇宙での生活にも応用できるはず。宇宙飛行士はこれまで歯磨き粉を吐き出すこともあったという。「オーラルピース」は、のみ込んでも大丈夫なので、水のない所でも使える。

JAXAが20年、宇宙生活での困り事解決のアイデアを募集すると、同社は応募した。その結果、ISSへの「搭載候補品」に選ばれた。

世界15カ国を超える国で、医療や小児歯科、アウトドアなどの分野で支持されてきた「オーラルピース」だが、さらに、ネオナイシンeを増量し、歯石が付きにくくするなど宇宙仕様に改良し、21年11月、「搭載品」に正式に選定されていた。

取材した日は、手島代表は不在。代わって、同社の経営統括顧問の加古良二さんが答えてくれた。次の目標について、「障がい者の社会参加と収入向上につながる、同様のビジネスモデルが、世界に広まるきっかけになってほしい」「手島代表は、将来は月や火星や宇宙ステーションでオーラルピースが販売されている姿を思い描いているはず」と話していた。

↑ページの先頭へ戻る